2011年12月28日

『その儘使へる繪と實用圖案文字』 売り切れ

お買い上げありがとうございます

昭和初期に関西で活躍していたグラフィックデザイナーと思われる十時柳江氏の手になる、カット図案と図案文字の本です。
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大正から昭和の初めにかけての数あるグラフィックデザインの中でも、氏は個人的に最も好みの作品群をお描きになっている方の一人なのです。

かなり凝った装幀の本です。扉紙にも硫酸紙が被せてあるなんて、あんまりないのではないかしらん。見返しと遊び紙に使われている紙も、エンボスになった細かい模様の入っている特殊なものです。
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見返しの柄は円弧のコンポジションなのでしょうが、何となく「インクの出のよくないボールペンの試し書き」を連想してしまいます(笑)。

昭和5年初版です。この年の2円20銭というと、白米10kg買ってお釣りが来るかどうか、というくらいの金額らしいですが、現代とは品物によって割高・割安感がだいぶ違うので貨幣価値を比較するのはなかなか難しいですね。
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左の方に、小判形の枠の中に「KW(…というより「M」の逆さまのように見えますが…)佐」とあるゴム印が天地逆に捺されていますが、これの意味は判りません。少なくとも著者検印の類いではなさそうですが…。

大きさ:本体およそ22.5cm×15.5cm強×2cm強 口絵2ページ+本文106ページ 外箱およそ23.5cm弱×16.5cm弱×2.5cm弱
重さ:本体およそ560g 外箱およそ70g弱
手入れ:本体・外箱とも外側のみ堅く絞った布で水拭き

実はこの本、扉から奥付に至るまで総てページの表側だけに印刷されていて、裏はいずれも真ッ更です。それ故、ページ数の割には分厚いのです。切り抜いて「その儘使へる」ようにした、という主旨なのかしらん…でも実際には薄い紙を当ててトレスしたり、手本として見ながら別に描いたりされる方が大半だったのではないかと思います。そうでないと、一度使った部分は続々なくなってしまいますからねぇ…現代のように気軽にコピーしたりスキャニングしたりする手段は、当時は何ひとつなかったのですから。

多色刷りの口絵は、被せた硫酸紙は斑に焼けているものの、本体の方は実に色鮮やかです。
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口絵2枚目(左側)の風景は、上のは中国のジャンク船ですが、下のは大正9年以降日本の信託統治領だったミクロネシア辺りのイメージなのでしょうか。

本文は紺・茶それぞれの単色刷りが混在しています。
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アルファベット4書体、数字10書体。そして傍らには何故か、剽軽な表情のお猿が…。

次には平仮名3書体、片仮名2書体が交互に載せられています。
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あらら、ちょっと墨の附いた手で触っちゃったみたいですね、元の持ち主のお方。

本書のページの大半を占めるのが、こうした各種商売用のポスター・チラシなどに使えそうなカット図案と図案文字です。
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これがまた、今見てもお洒落で恰好よいものがたくさん載っているのです。
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「編著」とあるので、十時氏ご本人が全部お描きになったのではない可能性もありますが、しかし全体的にかなり粒の揃った作品が並んでいると思います。
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モダン柄の銘仙を彷彿とさせるイラストもありますね。

その後に、数字が更に17書体載っています。
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…絵の具のついた筆をうっかり転がした跡がありますね〜(笑)。

最後に、当時の舶来製品商標類のコレクションが載っています。
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十時氏の作品が紛れているのかどうかは判りません。3ページばかり、斜めに折り目がついています。

遊び紙の下端角にもちょっと目立つ折れ癖がついています。
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本文1ページ目の真ん中よりやや下に糊のボタりがあったらしく、くっついた痕が破れてしまっています。…しかしこのページ、十二支の略画のようですが…虎にはとても見えませんね(笑)。

外箱の外装はかなり傷んでいますが、本体の表紙は綺麗です。天地や小口の擦れも認められません。
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只、中央イラストの赤い色はよく残っているものの、金色の箔がだいぶくすんでしまっていて、殊に背の部分は読み取りづらくなっています。

中身は全体的に紙焼けしてはいますが腰はしっかりしていて、綴じの弛み・開き癖もありません。
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外箱も内側は全体的に綺麗で、背の下半分に少し割れがありますがまだまだしっかりしている方だと思います。留めてある幅の広いステープルも少し錆びが出てはいますが、強度は充分あるようです。

編著者の十時氏については今のところ資料が全く見つからず、その経歴など皆目判らないままなのですが、それでもあれこれ調べている内にこの本そのものを含め幾つか興味を惹かれる点に気付きました。しかし、ここでそれを書き始めると話が脱線し過ぎていつまでも品出し出来なくなってしまいますので、その辺りは「雑記」ブログの方に近々別途載せようかなぁ、と考えているところです。
posted by 黯ねこ at 23:34 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍雑誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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